「母と暮せば」選評
月に一度の『映画を観て語る会』の100回記念におきまして、課題作の選定者となり、
「母と暮せば」の選評を書く機会を得ましたので拙文をアップします。
「母と暮せば」選評
年末年始を利用して、「母と暮らせば」「杉原千畝」「友だちのパパが好き」「禁じられた歌声」を一気に鑑賞しました。
昨年秋に私自身リトアニアの杉原千畝記念館を訪ねた関係もあり、杉原氏及び「杉原千畝」作品についての「映画の会」メンバーの方々の感想を聞きたいと思いました。「禁じられた遊び」は西アフリカでのIS支配の様子が上手く描かれており衝撃的な作品です。以上の2作品は捨て難かったです。
しかし、今回は100回記念。邦画を中心に語り合ってきた会であること、日本映画界を代表する監督であること、本会にもおいでいただいたことがあることなどの理由で山田洋次監督作品「母と暮せば」を選びました。
井上ひさしさんの広島を舞台にした戯曲「父と暮せば」の対となるものということで、映画版DVDを見てみました。原田芳雄さんと宮沢りえさんの二人が主演の映画で、原爆投下で亡くなった死者への申し訳なさから自らの幸せを求めようとしない娘の姿が描かれています。
長崎を舞台にした「母と暮せば」でも、吉永小百合さん演じるお母さんや息子の元恋人は原爆投下を生き残った罪悪感を隠そうとしません。広島・長崎で生きながらえた方々に少なからずあった内的葛藤について考えさせられました。
「父と暮せば」は二人芝居風の作品。それに対して「母と暮せば」では、母と二宮和也くん演じる息子とのふれあいを中心としながらも、登場人物各人に味わいを持たせ、終戦直後の遺族、親戚付き合い、近所関係、それに長崎の町の様子なども克明に描いています。奥行きのある「The映画」だと思いました。
吉永小百合さんの所作に知性と品を感じます。 突然息子を失った悲しみ、亡霊とはいえ再会できた喜びを茶目っ気交え演じています。優しくて、強くて、美しい母。それにしてもこのような齢の重ね方を真似ることのできる人 は果たしてどのくらいいらっしゃるのでしょうか。
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