2021年の観賞映画
☆の数は5つが満点 *「すばらしき世界」 ☆☆☆☆+☆半分 西川美和監督、役所広司、原案:佐々隆三『身分帳』 人生の大半を裏社会と刑務所で過ごした男の再出発を描く。 役所の演技が見事。西川監督もさすが。映像も脚本もキャストもいい。 リアルな日本人の姿をえぐり出している。親身になる人、差別意識のある人、不都合を見ないようにしている人。みな現実にいる日本人だ。でも全体で見たら「捨てたものではない」社会。余計なものをそぎ落とし無駄がない。 脇固めた中野太賀、長澤まさみも印象的。 *「シン・エヴァンゲリオン完結編」 ☆☆☆ 庵野秀明監督 これまでのシリーズを見ていないこともあり、理解が難しい。画像が、アニメ・特撮・実写・デジタルが入り混じり斬新であることはわかる。 哲学的・宗教的なセリフ。 庵野監督のことだから、考え抜いて創り込んでいるのだろうと想像するが、1度見ただけではわからない。 *「ブータン山の教室」 ☆☆☆☆ (岩波ホール) パオ・チョニン・ドルジ監督 初のブータン映画だという。世界一のへき地学校へ首都ティンプーからやってきた若い教師と地元の子どもたちとの交流を通じて本当の幸せとは何か問う作品。 ブータンの首都での若者の様子や地方の自然や風景、人々の日常が盛りだくさんでそれだけでも貴重な映像だ。 「幸福度世界一」を誇るブータン。「人は頼りにされ、必要とされることで生きがいや幸福を感じる」ことをこの作品は教えてくれる。クラス委員の女の子が好演。シンプルなストーリーですがすがしい気持ちにさせてくれる。期待以上。 *「街の上で」 ☆☆☆☆ 今泉力哉監督。若葉竜也、中田清渚、穂志もえか 楽しかった。思わず声を出して笑ってしまう場面もあり、巧みな脚本で自然な演技。現代の20代の等身大の生活や恋愛を垣間見た思い。 今泉監督はどうやら安積高校の後輩にあたりそう。今後に期待したい映画人。 *「いのちの停車場」 ☆☆☆ 成島出監督、南杏子原作、吉永小百合、松坂桃李、広瀬すず 評価は微妙なところ。 「いのちの仕舞い方」は命の数だけ、老若男女ひとりひとりにあり、命の尊厳について考える良い機会を与えてくれる。 他方、小池栄子演じる芸者さんのシーンなどあまり意味を感じない場面がいくつかあったように感じた。 最後に、自らの父の安楽死シーン。こうくるならこの大問題に正面から向きえばよいのにと思う。 *「キネマの神様」 ☆☆☆+☆半分 山田洋次監督、原田マハ原作、沢田研二、菅田将暉、永野芽郁 山田洋次監督の終活作品というのが第一印象。青春や古き良き映画全盛期の記録であり、ノスタルジーに浸りながらの人生を振り返るための作品のように感じた。 大上段に構えて大きなテーマを扱うのではなく、小さな幸せを求めた人生や夢破れて酒や博打におぼれた人生を描き、それらに向けられたまなざしは温かい。主人公の生き方に共感は覚えないが、映画としては上手くつくられていると思う。 *「由宇子の天秤」 ☆☆☆☆+☆半分 春本雄二郎監督(脚本)、瀧内久美 独立映画製作団体、春組の制作。独立系で新しい映画作りにチャレンジしている姿勢に拍手送りたい。とても見応えある。良く練られ、演技もいい。 メディアやSNSによる過剰なバッシングという大テーマを扱っている。独立系だからできることかもしれない。正義を振りかざすメディアや教師、政治。それらに存在する闇に迫りつつ、それと裏腹にある弱さを描きながら、深刻化するSNSバッシングへの問題提起をしている。とても考えさせる作品。 *「そしてバトンは渡された」 ☆☆☆☆+☆半分 前田哲監督、瀬尾まい子原作、永野芽郁、田中圭 主人公の継母が奔放で、次から次へと夫(パートナー)をとっかえひっかえ。しかもパートナー3人すべてが善人で包容力があり、そんなことはあり得ないという設定だ。その意味においての違和感は否めない。 しかし、見せ方が上手。笑顔とピアノで物語を切り結び、並行して展開していた2つのストーリーが同一人物を描いていたことが明らかになったころから泣かされる場面が続く。愛と優しさにあふれていて癒された。 *「クナシリ」 ☆☆☆☆ ウラジミール・コズロフ監督 旧ソ連出身の監督が撮った2019年現在の国後の映像で貴重だ。 これは日本人にはできないこと。ロシア当局から撮影許可をもらって撮ることになればロシアの管轄権を日本人自ら認めてしまい、日本の法的立場を害してしまうからである。 私は、2012年洋上から視察した経験がある。ロシア化が進み、開発が進んでいると聞いていたが、生活レベルは貧相に見える。かつての国後における日本人の暮らしぶりは、つつましやかでありながらも文化レベルの高いものであったことが描かれている。ニュートラルな立場で撮っていて、ロシアの表現の自由は、中国のそれよりはずっとましであると感じる。
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