通常国会を振り返って
今国会の焦点となったのは、まずは有事法制。私は従来から、緊急事態(有事)に関する法整備は必要であるが、問題は政府案の出来栄えであり、例えば基本的人権や民主的統制に関する規定が不十分であるし、肝心の有事の際に国民をどう守るか(避難誘導など)に関しての法制なしでは話にならぬと主張してきた。
そこで今回、具体的に対案を示した。そして私たちの主張のほとんどを与党が受け入れる形で法案成立が図られた。締め括り総括質疑(委員会質問はこちら →)でも小泉総理に申し上げたが、率直に言ってうれしかった。私は、与党を3年経験した後、7年前、野党である旧民主党の外交部会長になった。その時、安保部会長の前原氏とともに、これからは安全保障という国の根幹に関わる議論を神学論争に終わらせず、戦略論争に変えていき、安全保障について与野党が大きく対立するというこれまでの55年体制の脱却を図ることを心がけてきた。ゆえに今回の与野党合意には一定の感慨がある。
次に、緊張が続く北朝鮮問題。対北朝鮮外交を進めるときに常に念頭に置くべき1つは、この問題の最終ゴールの設定のし方である。つまり北朝鮮問題の望ましいシナリオをどうように描いているのか。
例えば、①南アフリカ型。かつての南アフリカがそうであったように、現体制を維持したまま、一方的に核を放棄するシナリオ。加えて拉致問題も解決されて、中国を参考に改革・開放政策を採るようにしていくシナリオ。②東ドイツ型。かつての東ドイツのように自然崩壊するシナリオ。北朝鮮の場合、自然崩壊したら、韓国に吸収されていくだろう。③イラク型。イラクのように米国等の武力行使によって北朝鮮を崩壊させるシナリオ。
どのシナリオを望むかで外交戦術が変わってくる。日本政府は、①のシナリオ。金正日体制のままの180度の政策転換を求めていく外交政策である。私は、②の自然崩壊シナリオも選択肢に入れるべきと考えている。
もし①のシナリオ、つまり金正日体制のままの政策転換を求めていくシナリオを採るなら、とにかく辛抱強く、粘り強く、妥協せずの対話を続けるしかない。ただ、妥協せずの対話を行うためには、「こっちに向かえば解決に向かう」という出口を示すことと、時には、経済制裁を行う用意があることを意思表示しておかねばならないだろう。対話一点で進むと、北朝鮮に返って誤ったメッセージを送ることになり、むしろ対話が進まない。
続いて、イラク問題。私は今でも、イラク国内における大量破壊兵器の存在について、人員の増員などの査察の強化、継続が正しい選択であったと思っている。大量破壊兵器の存在についての明確な根拠がないまま武力行使に至る事態について、私たちはもっと深刻に考えねばならない。歴史に汚点を残した可能性がある。3月に日独フォーラムメンバーとベルリンにてシュレーダー独首相に会った際、彼は「ドイツは米国と同盟国であり親友である。でも親友であるから注文も付ける」と語っていた。同感だ。何も注文を付けることなく盲目的に米国に従う日本。日米同盟は死活的に重要であるが、戦略対話なき同盟であってはいけない。
三位一体改革。「国から地方へ」という小泉首相のスローガンに沿って、税源移譲、補助金削減、地方交付税改革を一体で行うという。具体的には、国から地方自治体への補助金を4兆円削減し、うち8割を自治体の自主財源に移譲する。地方交付税については減らしていく。これらを3年間かけて実現するという案である。
なんとも「みみっちい案」である。採点すれば30点くらい。
そもそも三位一体改革や地方分権改革の目的は何か。3点ある。①各地域の潜在力の蓋を開けること。②無駄をつくるシステム、~例えば豊郷小学校のような芸術品のような校舎に対して、耐震構造の補修よりも建替えの方が自治体負担が少なくて済むようなしくみ~をなくすこと。③中央政府の役割を外交・防衛・金融・経済などに限定する事により中央政府の本来機能を発揮させること。
しかし、政府案では、上記3点の目的を1つとして達成しない。
マスコミは、補助金の4兆円削減が本当に実現できるかという切り口で、相変わらずそれに対する抵抗勢力との攻防を中心に報道している。しかし、それは問題の本質ではない。とにかく「描く絵が小さすぎる」のである。政府案では、仮にそれが実現したとしても、地域の潜在力の蓋は開かない。改革というより、小さな改善といった程度である。
私の考え方は、国の所得税から5.5兆円を地方の住民税に移譲すると同時に、その財源は補助金に求め、同時に、残りの補助金の大半について、紐の付かない、自治体が自由に使える一括交付金に変えてしまうというものである。このくらいの絵を書かないと、潜在力の蓋は開かない。これは従来からの持論であるが、具体的な政策として練り上げている。民主党の政策としても認められつつある。ただし、この政策は、中央政府の権限を大幅に縮小するものであり、役人の手先として働いている族議員が跋扈(ばっこ)する自民党政権では絶対に実現しない。実現には本格的政権交代が前提となる。(関連する委員会質問はこちら→第156回予算委員会25号2003年6月23日)
経済対策。構造改革重視か景気重視かというより、構造改革と景気回復の両立、仕事を増やしながら構造改革を行う拡大型構造改革が求められているように思う。
政府部門の財政赤字と企業部門の不良債権が問題となる中、家計部門は大幅な黒字である。2001年の統計によれば、家計部門の金融資産は約1400兆円。土地925兆円。建物260兆円。総資産2580兆円。それに対して、家計部門の借入金は385兆円。これからの経済を引っ張るべきは家計の消費なのではないか。
特に、その中で最も仕事をつくり、経済波及効果があるのは住宅投資である。しかも、日本の住宅水準は低く、潜在的ニーズは高い。思い切って、住宅に関する消費税をゼロにすることを考えるべきであるし、最低でも住宅ローンを組んだ時の利子を所得控除できる制度を創設すべきである。
民主党と自由党が9月末に合併する。民主党への吸収合併である。5月に一旦白紙に戻った話であったが、結果として最も望ましい形での合併となった。私は、合併に対してほぼ中立の立場であったが、同時に5月に一旦白紙に戻した際、秋に勝負をかけるべきと菅代表や岡田幹事長に申し上げてきた。「誰もが合併は無理と思っているその時こそチャンスで、菅さんが小沢さんを飲み込むような合併ができたらおもしろい」と。
次期総選挙は政権選択選挙となる公算が大きくなってきた。ただ、この形が二大政党の行き着く先かといえば、それはノーであろう。3~4年後くらいにもう一段の再編が必要となろう。
マニュフェスト(政権公約)という言葉が流行りだした。総選挙の前に、政権を担おうとする政党は、政権を取ったらと何を行うかを具体的に財源つき期限付き、さらには実行体制付きで国民に約束するべきとするものである。
現場を歩き、政権交代の必要性を説明すると時折こういう問いが返ってくる。「では細川政権は何を実現したのか」と。選挙制度改革など自民党ではできないことを行った部分もあるが、確かに反省点が多い。何より官僚主導であったことは否めないし、閣僚でもない小沢氏の影響力が格別大きかったのも事実である。つまり細川政権では政府内の構造改革には踏み込めず、その点においては、現在の自民党政権とあまり変わることはなかった。私たちはあの時の失敗を教訓にして、十分なトレーニングを行ってきた。次に政権を担う時は、強い政治の指導力を発揮できよう。マニュフェストもそれを助けてくれる。マニュフェスト、つまりは党内一致した財源付き数値目標付き実行体制付きの政権公約を、総選挙の前に、首相候補と共に国民に示すことにより、その政策の実現性は国民の支持を背景に飛躍的に高まるはずである。
先ごろ、そのための超党派の推進議連を立ち上げ、共同代表の一人を務めることになった。秋の臨時国会において、現行ではできないとされている選挙期間中のマニュフェストの頒布を可能にするような公選法改正案を提出し、総選挙前に成立させたいと考えている。