『日本の政策課題と将来展望』
『日本の政策課題と将来展望』
(昨年12月15日に開催されました国際公共政策研究センターでの講演より)
1.日本が目指すべき政策の方向性
国会に出て17年、政治家の使命は、豊かさを次の世代に、できれば豊かさも成熟した豊かさにかえて引き継ぐことに尽きる。10年、あるいは20年、50年先を見通しながら、国益と国民益の観点から間違いのない判断、歴史の評価に耐えられる判断をしようと思っている。
この国が目指すべき方向性は2つ。まず1つは、少子高齢化の問題。これをアジアに先駆けて克服すれば、日本は一目もニ目も置かれる存在になる。2つ目は日本のDNA・強みは何かを考え、伸ばすことである。ある経済人の方から「日本人の強みは微細化の技術とチームワーク」と伺った。例えば、環境技術を生かし、環境問題を世界に先駆けて克服するというのも国家目標たり得る。
環境問題に対する今の民主党の姿勢は、CO2削減のみを重視する側面があるが、今後は環境イノベーションに重心を置く方向へ組み替える。温暖化対策税と固定価格買い取り制度は入れるが、排出権取引制度は慎重に検討を行う。CO2の2030年30%削減は実現可能と思っており、そのために技術体系をどうやって別次元にしてゆくか、政策を戦略的に組み替えていくことが大切である。
そのためには、まず成長が不可欠である。現役世代が減少する少子高齢化社会で、生産性を高め、労働力の問題を解決する必要がある。社会保障と税制抜本改革も、デフレ脱却や成長している実感がないと国民的合意が得られにくい。
現役世代の減少問題について、かぎを握るのは女性の就業率である。日本は先進国の中で最も低いが、名目成長率が高い国は、女性の就業率も高いとの相関関係がある。日本の女性は非常に優秀だが、十分に活躍できておらず、出産後に会社を辞める女性が一番多いのが日本である。例えば、短時間の正規雇用の導入など、政労使で真剣かつ深刻に方策を考えたほうが良い。但し、逆に言えば潜在力があり、少子高齢化社会に対する武器は残っていると間違いなく言える。
2.2011年度の政策課題
2011年度の税制と予算について、一定程度の成長軌道に乗せるため、昨日(注:2010年12月14日)、法人税を5%引き下げ、あわせて環境投資減税、雇用促進税制も導入し、中小企業の軽減税率を18%から15%へ引き下げることを決めた。民主党らしくないとの指摘もあるが、税制だけで「ペイ・アズ・ユー・ゴー」をやるという硬直的な考え方では、成長もしないし、雇用や投資も生まれない。但し、一定の財政規律は必要であり、歳出枠は71兆円を守り、国債発行も44.3兆円以下にする約束をした。極めて順調に税制改正、予算編成は進んでいる。総理自身の判断、リーダーシップもあり、今回は柔軟性を持った対応ができたと思う。
2011年、最大の政策テーマは社会保障と税制抜本改革であり、どんな困難があってもやり遂げるべきである。来年半ばに社会保障のあるべき姿を示し、税制、消費税を含めた抜本改革の案を詳細につくりたい。またその前に与野党で検討できる場も設けたい。
3.日本の経済連携と農業政策
経済連携政策については、私の責任でまとめた。TPPが2011年11月にはまとまらない可能性もある中、2国間の高いレベルの経済連携を先行して推進することを、農水省も含めて覚悟したのが最大のポイントであり、きわめて戦略的かつ現実的だと思っている。
日本の経済連携の自由化率は、多くの農産物が例外になっており、8割台と極端に低い。これを、95%や96%といった水準まで引き上げるという決意である。今後は、日豪、日韓、日EU、日米をはじめ、高いレベルの経済連携を今までより速いスピードで推進することになる。
日本の地政学的な位置を考えれば、太平洋へ出ることは運命づけられており、日本人の商魂を生かし、アジア太平洋40億人の需要を日本の内需にできるかということは死活問題である。どの国と、どの順序で、どの時間軸で高いレベルの経済連携を進めるのか、戦略的に物事を進めていくことが大事であり、私が司令塔になり、外務大臣、経産大臣と常に話し合える体制を作ったところである。
農業も守りだけではなく、現在、8兆円の生産額に占める4,500億円の輸出をどこまで増やせるかという攻めの姿勢が必要。アジアの富裕層の胃袋は、日本の食材で満たすことを戦略として推し進めたい。
4.今後の展望
今は、以前のような分配の政治というより、政策の優先順位とメリハリをどう付けるかという政治であるため調整案件が多い。民主党の政調会長ならびに国家戦略担当大臣の立場で官房長官と役割を分担している。官房長官が外交、安全保障、危機管理を担当し、私は予算の基本方針、税の骨格、中長期の経済財政、経済連携の取りまとめと司令塔役、温暖化対策の各省調整を扱っている。今後もさらに戦略課題を増やす形にしたい。
たとえば、文化政策も戦略課題に加えたいと思っている。国力とは経済力と軍事力と文化力の総合的なものであり、日本の経済力が相対的に落ちている中、費用対効果が一番大きいと考えている。
政治家は「政策」「政局」「選挙」に強くなければいけない。選挙区を気にしていると、本当に国民益や国益に沿った判断ができないからである。「いい加減、だめ比べはやめて、説得の政治にしよう」と自民党の幹部とも話しをしたところ。したがって私はTPPや経済連携の話も、堂々と農業団体の前で行っている。
日本の将来は、決して楽観視できる状況ではないが、皆様のご指導をいただきながら、少しでもこの国が前進するよう、物事を前に進めて行きたい。