12月の一冊 『ながい坂』
『ながい坂』 (上・下) 山本周五郎 著 (新潮文庫) 今月の一冊というより、今年の一冊。 「人の一生はながい(略)一足跳びに山の頂点へあがるのも、一歩一歩としっかり登っていくのも結局同じことになるんだ。一足跳びにあがるより一歩ずつ登る ほうが途中の草木や泉やいろんな風物を見ることができるし、それよりも一歩一歩たしかめてきた、という自信をつかむことのほうが強い力になる」 「引き返すことのできない道へ入った。その道は、険しく苦しい辛いことが多い。しかも引き返したり、脇へそれたりすることはできない」 「成り上がり者ってなあ(略)貧乏人から長者になり、草履取りから大名になったのをいうじゃねえ。てめえが長者になると、急にそり返って貧乏人を見下すような野郎をいうんだ」 「おとし穴を知らない者は、落ちてからでなければ、そこにおとし穴があることに気がつかない」 「身のまわりになにか起こるたびに、道が新しく開け大きく転換する。これがおれに与えられた運なのか」 主人公の三浦主水正(もんどのしょう)の生涯をとおして語られる言葉には深い味わいがある。 |