『水滸伝』 (1巻)~(19巻) 北方謙三著 (集英社)
「君の心の奥底に流れる“内に秘めたる闘志”をいつも感じてきた。」
高校時代、担任の君島整先生(後に橘高校校長など)が、学年末に配布される通信簿にこう書いてくださったのを今でも覚えている。
先生ご本人はそのような言葉を記したことを覚えているはずもないし、もしかしたら私だけでなく多くの生徒達に送った言葉なのかもしれない。しかし、不完 全燃焼の高校生活を送っていた私にとって、この一言は、確実に当時の私の心を揺さぶり、後の私を大いに鼓舞し勇気づけた。高校時代の宝物である。
君島先生は、北方ファンである。国会議員になった頃、高校の同級生たちが励ます会を開いてくれた。その際、挨拶を求められた君島先生は、北方謙三の『破軍の星』の一節を引用しながらエールを送ってくださった。その後頂く激励の言葉にも北方の著作からの引用が時々あった。
そのようなこともあり、北方謙三には元々興味を抱いていた。ついに昨年末『楊家将』(上)(下)を読んだ。なるほど筆力があると思った。読み終えて、すぐ『水滸伝』へ。19巻もあるのにと思いつつ。
ある種ワンパターンなので、中だるみもしたが、全般的に非常に楽しい時間だった。四大奇書「水滸伝」。その原型を大きく組み直し、梁山泊の108人の豪 傑たちを自由自在に描く。平気で英雄たちを殺していき、ロマンスも挿入する。原典では凡庸そうなトップであるらしい宗江(そうこう)も人間的な魅力にあふ れる男として語らせる。
「男の人生。どこかで自分を解き放ち思うさま生きる」
これでもかという男の志・夢・ロマンの物語。飽きそうになると上手く場面を転換させる。戦闘シーンも迫力がある。
「勝負は死ぬ間際に決まる」として、それぞれの漢(おとこ)たちの死にざまに気を遣う。
例えば、林沖。
「俺は女の命を救いたいのだ。女の命も救えない男に俺をしないでくれ」。
そして宗江。
「死ねぬぞ、その旗を持つかぎり。あらゆる人の世の苦しみも背負うことになる。」
「よし、止めを刺してくれ。」
「吹毛剣で。吹毛剣に私の血を吸わせて欲しい。」
北方は、加藤徹氏との対談で、キューバ革命を「水滸伝」に移し変えたと語っている。
カストロとチェ・ゲバラが宗江と晁蓋らしい。カリブ海が梁山泊。アメリカ合衆国が宗という大きな国。「今月の一本(本年2月)」で『チェ・ゲバラ 28歳の革命』、『同 39歳の別れ』を取り上げたばかりであったことは偶然とはいえ因縁か。
要は、変革のロマンチシズムを描きたかったと思う。
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