1月の演劇 「冒険王]
『冒険王』 作・演出 平田オリザ
昨年末の鑑賞だが、演劇にはあまり足を運ばないので一言触れたい。
民主党の松井参議院議員が「平田オリザは天才である」という。従って、演劇に対する関心というより平田オリザという劇作家に興味があって、こまばアゴラ劇場へ。
平田さんの作品は、『風のつめたき櫻かな』に続き2回目。100人も入れば満杯となるアットホームなこの劇場は、平田さんのかつての自宅だそうだ。幕もないステージ上では、上演開始時刻前から俳優たちが無言で演技をしている。この様式は平田
さんのいつものスタイル(だと思う)。舞台と客席が接近しているので目の前で芝居は進行していく。
平田さんは17歳の時に世界一周自転車旅行を経験したという。その冒険旅行で滞在したイスタンブールでの安宿での出来事、主に若い日本人旅行者たちとの短期共同生活を脚本化している。交わされる会話の7割は実際にあったそれであり、登場人物も実在のモデルがあるらしい。
30年前のことである。当時の日本の若者たちは世界を旅行しながら何に関心を持ち、何に悩み、何に楽しみを見出していたのか。自分もほぼ同世代であるだけに、自らとの比較という意味でも興味深い。
平田さんは、「行き場のない立ち往生する日本の若者の姿を描いた」という(パンフレット)。アジアが東に、欧州が西に、中近東とは地続きの東西文明融合の地、イスタンブールの街が舞台というのは絶妙の設定だ。
僕にとっても、登場人物たちはモラトリアム的逃避を繰り返す、目標を持ち得ない若者たちに映る。それは、物質的豊かさを手に入れ、「欧米へ追いつけ型」の国家目標が失われた「時代」、当時の日本の立ち位置とも重なる。
世代によって見方が違うだろう。平田さんによれば、高校生が鑑賞するとおもしろい感想が寄せられるらしい。
それにしても、平田オリザという人物。大学時代ならともかく、高校時代にコツコツお金を貯めて世界一周自転車旅行とはそれだけでも只者ではない。
2月23日夕方、有志の国会議員、ジャーナリストらの主催で、平田オリザ作『ヤルタ会談』が憲政記念館で上演されることに
なっている。