2017年1月~3月の映画
☆の数は5つが満点 『アイヒマンを追え。ナチスが最も畏れた男』 ☆☆☆☆ (独)ラース・クラウメ監督、ブルクハルト・クラウスナー 『幸せなひとりぼっち』 ☆☆☆☆ (スウェーデン)ハンネス・ホルム監督、フレドリック・バックマン原作、ロルフ・ラスゴード 『疾風スプリンター』 ☆☆☆ (破風・TO THE FORE)(香港)ダンテ・ラム監督、エディ・ポン 『コンサルタント』 ☆☆☆☆ (THE ACCOUNTANT)(米国)ギャビン・オコナー監督、ベン・アフレック 『スノーデン』 ☆☆☆ (米)オリバー・ストーン監督、ジョセフ・ゴードン=レビット 『愚行録』 ☆☆☆☆ 石川慶監督、妻夫木聡、貫井徳郎原作 『マリアンヌ』 ☆☆☆☆ (米)ロバート・ゼメキス監督、ブラッド・ピット、マリオン・コティヤール 『沈黙』 ☆☆☆ (米)マーティン・スコセッシ監督、アンドリュー・ガーフィールド、浅野忠信、窪塚洋介 原作 遠藤周作 ※番外編 『数直線』 ☆☆☆☆☆ 高校演劇 福島県立ふたば未来学園
『アイヒマンを追え』 海外逃亡したナチスの戦犯、アドルフ・アイヒマンを追い詰めた州検事長バウアーの物語。イスラエルの諜報機関モサドとの接触や1950年代のドイツ捜査機関におけるナチス残党の暗躍などが生々しい。 『幸せなひとりぼっち』 スエーデンの映画などなかなかお目にかかれないと思い足を運んだ。冬のどんよりした風景、郊外のたたずまいにスエーデンらしさを感じる。ベストセラーの映画化。武骨で頑固者だが愛情深いおじいさんが主人公で、どこの国にもいる懐かしさを誘う存在だ。イラン人妊婦とその後生まれる赤ちゃんとの触れ合いに、「生きるエネルギー」が湧いてくるのは、やはり古今東西、居場所と出番、頼られることが生きる上では大事であることを示していると思う。 『疾風スプリンター』 この作品によってツール・ド・フランスなど自転車競技の醍醐味が少しは理解できた。 序盤は冗長な感じがしたが、中盤から終盤にかけて引き込まれた。夢・友情・恋愛を笑いと涙を織り交ぜながら描いている。自己主張ばかりの主人公が、自らを犠牲にできたときにロードレースで初めて勝利できたこと、「夢は逃げない、自分が逃げなければ」というセリフが心に残る。 『コンサルタント』 130分を長く感じさせない。ストーリーの組み立てが上手。主人公は高機能自閉症。 ふつうでないが、数学的天才。それに加え軍人の父に鍛えられたこともあり希代のスナイパーでもある。現実はなかなか甘くないと思われるが、「普通って何?」「DIFFERENT」という投げかけをしながらのアクション・サスペンスはなかなのもの。 『スノーデン』 元CIA職員エドワード・スノーデンの実話。米国の一般市民、同盟国首脳まで監視システムの対象であることを暴露。彼は英雄か犯罪者か。ストーン監督は民主党のサンダースを支援するリベラル派だから彼の当時の役割などをやや誇張して描き、英雄寄りで描いたように推測する。 『愚行録』 人には多かれ少なかれ二面性というものが存在するだろう。安全無欠の真っ白人間も、逆に真っ黒人間もいない。人間は少なくともグレーな存在だ。この作品は、人間の暗部を直視し、それぞれの「愚行」をたどる。見終えて1週間たつがいまだ残像あり、インパクトが強い作品。もちろん後味はよくないのだがスリリングだし飽きさせない。真犯人が事件を追っていた記者の妹だったというのは少し出来すぎのストーリーの感あり。そのことを石川監督と会った際に話したら、「妻夫木さん扮する記者は当初からもしかしたら妹が犯人かもしれないという思いで事件を追ったのだが、そのことを映像ではカットしたから」ということでした。妻夫木聡が相変わらずの好演。 『マリアンヌ』 美しく古典的ともいえるラブストーリー。主演の二人がさすがにかっこ良く絵になる。 モロッコの砂漠、カサブランカの街の映像がいい。モロッコ第二の都市マラケシュの屋根の上のレストランで鮮やかな月を眺めながら食事をしたことがある。主人公が屋根の上で夜を過ごすシーンがたびたび出てくるが、確かに夜は屋上を使用する文化なのだ。 ラストシーンでブラビ演ずる英国情報部員の上司がさりげなく彼をかばうシーンは、名画「カサブランカ」を想起させ抒情的だ。 『沈黙』 江戸時代初期の日本。キリスト教は禁教とされ、布教のため日本に渡った宣教師や信徒はさまざまな迫害や拷問を受ける。特に転ばなければ(信仰を捨てなければ)信者を拷問するという手法は、つい最近までの日本の検察の取り調べと類似しハッとさせられる。 ※番外編 『数直線』 高校演劇 深く感動した。ふたば未来学園は、福島原発事故で避難を余儀なくされた福島県双葉郡の子どもたちのためにつくられた新設県立高校。平田オリザさんが演劇の指導をされている。東京公演があると聞いて足を運んでみたが、レベルの高さに驚いた。テンポよし、笑いあり涙あり。何より、非常に複雑で多様な福島の被災地の状況や人々の気持ちを 上手に立体的に表現していた。心から拍手をおくる。
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